落語「お見立て」は、江戸時代の遊郭を舞台にした演目です。
杢兵衛(もくべえ)は、花魁の喜瀬川(きせがわ)に惚れ込んでいるのですが、喜瀬川は杢兵衛に会いたくないため、嘘に嘘を重ねていくという、笑い話です。
この記事では、落語「お見立て」のあらすじやオチなどを紹介していきます。
落語「お見立て」とは
落語「お見立て」は、江戸時代の遊郭を舞台にした古典落語の演目の一つです。
このお話は、田舎出身の富豪の杢兵衛(もくべえ)が、吉原の花である喜瀬川に恋をしたことをきっかけに巻き起こっていく、滑稽なやりとりを描いています。
演目のタイトルである「お見立て」は、吉原遊郭で客が遊女を選ぶ際の言葉から来ていますが、この「お見立て」という言葉が、最後のオチにも繋がっていきます。
元になるお話は、1808年(文化5年)に出版された笑話本『噺の百千鳥』の一編「手くだの裏」。
ちなみに、上方落語(関西の落語)では、「手向け茶屋(たむけぢゃや)」というタイトルで演じられています。
登場人物
それでは、お見立ての登場人物を紹介します。
杢兵衛(もくべえ)
田舎出身の富農。
花魁の喜瀬川に惚れ込んでいる。
喜瀬川(きせがわ)
吉原の花魁(おいらん)。
杢兵衛に指名をされるが、杢兵衛に会うのが嫌で、嘘で誤魔化そうとします。
喜助(きすけ)
喜瀬川が働く店の妓夫(ぎゅう。遊女屋で働く男)。
杢兵衛に会いたくないという喜瀬川のわがままに振り回されます。
あらすじ
それでは、落語「お見立て」のあらすじを紹介します。
本当の落語では、杢兵衛(もくべえ)は、田舎出身ということもあり、田舎なまりの話し方が笑えるポイントでもあるのですが、この記事では、あらすじを伝えやすくするため、なまりは抑えめで、紹介させていただきます。
お店に杢兵衛がやってくる
ある日、吉原の花魁「喜瀬川(きせがわ)」のところに、田舎のお金持ちである「杢兵衛(もくべえ)」がやってきて、喜瀬川のことを指名します。
ちなみに、吉原で花魁を指名することを、「お見立て」と言います。
杢兵衛がお店に来たことを、このお店で働いている喜助(きすけ)が報告しに来ます。
喜瀬川さん、杢兵衛大尽がいらっしゃってますよ。
※大尽(だいじん)とは、お金持ちや、遊郭などでお金を使う人のこと。
杢兵衛が来てるのかい?
あら、嫌だねー。
私、あの人の顔を見ると虫唾が走るんだからぁ。
そう言われましてもねぇ。
なら、いいわよー。
患っちゃったって、言っちゃいなよー。
患ったって言っても、なんの病気かって聞かれますよ?
それなら、「しばらく、杢兵衛さんが来られてないから、きっと嫌われたに違いない。喜瀬川は、そう思い込んでしまい、食事も喉を通らず、そのまま患ってしまいました」って、答えるんだよ。
なるほど!
恋わずらいってやつですね!
このような流れで、喜瀬川のわがままで、喜助が杢兵衛のところに嘘をつきにいきます。
杢兵衛に「喜瀬川は、患っている」と伝えるが…
喜助は、杢兵衛のところに行き、喜瀬川は患っていると嘘を伝え、杢兵衛を追い返そうとします。
実はですね、喜瀬川は、旦那に会えないことで、恋焦がれて患ってしまったんですよ。
なんだって!?
オラに会えないから、患っちまったかぁ。
かわいそうになぁ…
よし!見舞ってやるべ。
え?
いや!結構でございます!
結構も何も、オラのために患ってるんだろ?
オラが会えば、すぐに良くなるべ。
このような調子で、喜瀬川のお見舞いに行くと言い出した杢兵衛。
困った喜助は、一度喜瀬川のところに戻ります。
喜助が、喜瀬川のところに戻ってくる
戻ってきたのかい。
上手くいったろ?
これが、上手くいかないんですよ。
花魁が患ってると伝えたら、見舞いに行くって言い出したんですよ。
しょうがないねぇ…
どうしようかしら…。
じゃあ、死んじゃったって言いなよ。
死んじゃったって…!
また、なんで死んじゃったんだって、聞かれるでしょ!
じゃあ、さっきの続きを言いなよ。
「患って入院してたのですが、恋わずらいでだんだん調子が悪くなって、最後は杢兵衛さんのことを思い、最後に涙を流したのが、今生の別れになりました」って伝えなよ。
まったくも〜…。
喜助は、渋々ながら、この話を了承します。
再び喜助が、杢兵衛のところに行く
再び喜助が、杢兵衛のところに行き、説明を始めます。
実は、先ほどの話には続きがありましてね。
かくかくしかじかで、喜瀬川は、亡くなってしまってるんですよ…
オメェ、嘘は言っちゃいけねぇよ。
いえいえ!
私、嘘は申しておりません。
旦那に焦がれて死んでしまったんです。
最初は、喜瀬川が死んだことを疑っていた杢兵衛ですが、そのうち、そのことを信じてしまいます。
そうかぁ…。
喜瀬川は、死んでしまったんだなぁ…。
墓参りに行くべ。寺はどこだ?
え?
あ〜、お寺ですね。
お寺は、この近くでございます。
三谷(さんや)でございまして。
墓参りに杢兵衛が行きたいと言い出したことで、困ってしまった喜助は、また喜瀬川のところに戻り、相談します。
喜瀬川にお墓参りの相談をする喜助
喜助は、喜瀬川のところに戻り、杢兵衛がお墓参りをしたいと言い出したことを相談します。
花魁が亡くなったって伝えたら、お墓入りに行くって言い出して、私は勢い余って、三谷にあるって言っちゃいましたよ。
バカだねぇ…
三谷なんてすぐそこじゃないかい。
もっと遠くにあるって言いなよ。
遠くにあるって言っても、あの人は来ちまいますよ。
そうだねぇ…。
じゃあ、行って来なよ。
お墓参り。
えぇ…
このように、喜瀬川のわがままに振り回され、喜瀬川のお墓参りに杢兵衛を連れていくことになってしまいます。
杢兵衛とお墓参りに行く喜助
そんなこんなで、喜助は、三谷にあるお寺に、杢兵衛とお墓参りに行きます。
このお寺でございます。
喜助は、適当なお墓を見つけ、花と線香を添え、杢兵衛を案内します。
そして、喜瀬川の(ものと嘘をついている)お墓の前で、杢兵衛は手を合わせます。
喜瀬川〜…。
オラが悪かった…
花が多くて戒名が見えんな。
そう言って、花を避けるとお墓には「安門養空信士」と書かれています。
信士!?
こりゃ、男の墓じゃねぇか!
あぁ!間違えちまいました!
こっちの墓でした!
喜助は、なんとか誤魔化し、別の墓を案内します。
この墓か…
喜瀬川〜…。
え?陸軍歩兵上等兵!?
これは、戦没者の墓でねぇか!
すみません、また間違えちまいました。
本物の墓がなかなか見つからずイラだつ杢兵衛。
結局、どれが喜瀬川の墓なんだ??
そう聞かれ、喜助は次のように答えます。
えぇ、お墓がずらりと並んでおります。
よろしいのをお見立て願います。
と、「お墓をどれにするかお見立てしてください」という、遊郭の指名(お見立て)とかけた言葉がオチとなり、このお話は終わります。
まとめ
この記事では、落語「お見立て」のあらすじや、オチについて紹介させていただきました。
この他にも、これから落語を楽しみたいという方に向けて、記事を作成していますので、他の記事も参考にしてみてください。