落語「死神」は、数ある落語のお話の中でも、人気の高い演目の一つです。
腹を抱えて笑える作品、というわけではないのですが、噺家のお話に引き込まれる作品です。
ミュージシャンの米津玄師さんの楽曲にも「死神」という作品があり、この演目がモチーフにされています。
この記事では、落語「死神」のあらすじなどに加えて、オチのパターンについてもいくつか紹介していきます。
落語「死神」とは
落語「死神」は、人生何をやっても上手くいかず、金に困った男が、ある日死神と出会うというお話です。
死神から、とある呪文を教えてもらい、男は医師として成功します。
しかし、男は金に目が眩んでしまい、死神との約束を破ってしまう…。というお話です。
このお話は、幕末から明治ごろに活躍した初代三遊亭圓朝が創作した作品と言われており、明治時代から盛んに演じられています。
冒頭でもお話しましたが、ミュージシャンの米津玄師さんもこの作品をモチーフにした曲を作ってします。
主な登場人物
それでは、主な登場人物を紹介していきます。
主人公
このお話の主人公の男性。
何をやっても上手くいかず、ついに自殺をしてしまおうと考えていたところ、死神と出会います。
このことをきっかけに医師として成功するのですが、お金に目が眩んでしまい、死神との約束を破ってしまいます。
死神
主人公の男の前にいきなり現れ、見た目や痩せ細り、杖を持った老人として話されることが多いキャラクターです。
「金が儲かる仕事がある」と持ちかけ、とある呪文を男に教え、医師になって儲けることをすすめます。
あらすじ
それでは、落語「死神」のあらすじを紹介していきます。
主人公の男が死神と出会う
主人公の男は、お金に縁もなく、そのことで妻にも冷たくあしらわれ、街中をブラブラと歩いています。
あ〜…。
生きてるのが嫌になっちまったなぁ…。
あっ…!
立派な木だな。いっそ、首をくくって死んじまおうか。
でも、どうやってやったらいいんだろうなぁ。
そうしていると、杖をついた痩せこけた老人が現れ、男に話しかけてきます。
教えてやろうか…
だ…、誰だよ!
わしは、死神じゃよ。
死神!?
だから、こんなに死にたい気持ちになったのか!?
こっち来るんじゃねぇよ!
まぁ、そんなに邪険にするんじゃないよ。
言ってもわからないだろうが、お前はわしには深い因縁があるんじゃ。
お前さん、だいぶ困ってるようだから、いいことを教えてやろうか?
死神に呪文を教えてもらう主人公
「困っているようだから、いいことを教えてやろう」と言った死神は、次のように説明し始めます。
お前、医者になりなよ。
医者!?
学のねぇ俺がなれるわけねぇだろ。
学なんていらねぇさ。
病人が寝ていると、その枕元か足元かどっちかに死神がつくんだ。
枕元に死神がいるのは、どうにもならん。寿命だ。
足元にいる場合は、治すことができるから、今から教えてやる呪文でお前が治してやるんだ。
呪文ってどんなのだよ。
簡単じゃよ。
「アジャラカモクレン、テケレッツのパ」と言って、手を2回叩くだけじゃよ。
そうすると、足元にいた死神がたちまち消えて、患者はよくなるだろうよ。
こいつを利用すれば、お前は名医として、大金を稼げるだろうよ。
ちなみに、この「アジャラカモクレン…」というおまじないは、噺家さんによって、少しずつアレンジがされている場合があります。
死神に言われたように試してみる主人公
家に帰った主人公は、かまぼこ板の裏に「医者」と書いた看板を掲げ、患者がくることを待ってみることにします。
すると、ものの10分後には、患者が現れます。
ごめんください。
こちらは、お医者様でこざいますか?
え…、えぇ!
そうです!
私、日本橋で越前屋を営んでいるものなんですが、主人が病を患ってしまい、いろいろな先生に見てもらったんですが、なかなか治らないんです。
よく当たる易者(占い師)に聞いたところ、こちらの方角のお医者様にお願いすれば、必ず治ると言われたもので…。
なるほど!
では、行きましょう!
主人公は、おそるおそる病人のいるところまで行き、部屋に入ってみると、なんと先立って死神が教えてくれたように、足元に死神が座っていました。
その先生にも無理だと言われたんですが、どうでしょうか?
これなら大丈夫ですよ。
私に任せておいてください。
ちょいと、まじないを唱えますからね。
「アジャラカモクレン、テケレッツのパ」
そう言って、主人公の男が2回ほど手を叩くと、死神はスーッと消えていなくなってしまいました。
死神がいなくなった途端に病人はたちまち元気になりました。
名医として評判になり、豪遊を始める主人公
先ほどのことが評判となり、男はたちまち名医として、名が知れ渡っていきます。
しかも、都合が良いことにどこへ行ってもたいてい足元に死神が座っており、男はたちまち病気を治していきます。
男は大金持ちになり、すっかりいい気になった男は、豪遊を続け、有り金を使い果たしてしまいます。
今度は、枕元ばかり死神が現れてしまう
上手いことというのは、なかなか続かないもので、今度は思うようにいかず、患者のところに行っても、枕元に死神がいることばかりです。
この場合、患者を治せないので、だんだんと患者が来なくなってしまい、依頼が来ても枕元に死神がいるということが続きます。
大金持ちから依頼がくる
そんなこんなで困っていたところ、江戸でも屈指の大金持ちから使いがやってきます。
どうか先生に見てもらいたいと言われ、患者のところに行ってみる、今回も枕元に死神が座っていました。
あー、こいつは寿命だ。
諦めな…。
そんな…!
たとえ、1ヶ月でも2ヶ月でも寿命を伸ばしていただけたら、一万両をお支払いしますから…!
一万両!!!!
ちょっと考えさせておくれよ…
信じられないほどの高額を提案された主人公は、お金に目が眩んでしまい、悪知恵を働かせます。
無理やり患者を治そうとする主人公
それじゃあ、若い男を4人読んで、病人の布団の四隅に置いてくれ。
俺が合図をしたら、布団を持ち上げて頭と足の位置を入れ替えて欲しい。
わかりました!
こうして、主人公たちは、この作戦を実行することになります。
ただし、死神が隙を見せたタイミングで行うことが大切なので、しばらく死神の様子を見ます。
すると、だんだんと夜が明けていくにつれて、死神がコクリコクリと居眠りを始めてしまいます。
その隙を見逃さなかった主人公は、全員に合図を送り、周りにいた人たちが、布団の枕元と足元をくるっと入れ替えてしまいます。
主人公は、すかさずに、
アジャラカモクレン、テケレッツのパ!
と呪文を唱えると、死神はスーッと消えてしまいました。
作戦が上手くいったため、たちまち病人は良くなって、主人公は一万両もの大金を手にいれることができました。
大金を手に入れた主人公の前に死神が現れる
いやー、上手くいったなぁ。
大金を手に入れ、上機嫌な主人公の前に死神が現れます。
どうして、あんなバカなことをした。
ど…どうも、お久しぶりで。
どうも、すみませんでしたね。
すみませんじゃないよ。
やっちまったことは仕方ねぇ。
ちょっと、着いてきな。
嫌がる主人公を、死神は穴ぐらへと連れ込みます。
そこには、ロウソクがたくさん並んでいました。
わぁ〜!
ロウソクがなんで、こんなにたくさん並んでいるんですかい?
このロウソクたちはな、人の寿命を表しているんだよ。
なるほど!
このロウソクは、威勢よく燃えてますね!
それは、お前のせがれのだ。
まだまだ寿命があるんだよ。
あいつは、長生きなんですねー!
えへへ、いいねぇ、長生きだねぇ。
そうこう話していると、やけに短くなったロウソクを見つけます。
こっちのロウソクは、短くて今にも消えそうなやつですねぇ!
それは、お前のだよ。
え?
お前の寿命だよ。
だって、今にも消えそうじゃねぇですか!
お前が無理やり助けた病人の男と、ロウソクが入れ替わったんだ。
お前は、金に目が眩んで、寿命をとっかえちまったんだよ。
気の毒に。
もうじき死ぬよ…。
なんと、先日、寿命で亡くなるはずだった患者を無理やり治したことで、その患者と自分の寿命が入れかわってしまったとのことです。
ロウソクの火を移すことができれば、助かるかもしれないと言われる
自分の寿命のロウソクは今にも消えそうで、このままだと、男は死んでしまいます。
なんとかならねぇのかい!?
一度入れ替わったロウソクはもう入れ替わらない。
諦めな。
ただな…
こっちに別のロウソクがある。
このロウソクにうまく火を移せたら、助かるかもなぁ…
こっちの火がついてないロウソクに、上手く火を移せればいいんだな!
そう死神に言われ、ロウソクの火を移そうとしますが、自分の命がかかっていますので、緊張と焦りでで手はガタガタと震え、上手く火を写すことができません。
早くしないと消えるぞ…。
死んじまうぞ…。
ちょっと黙ってくれ!
焦らすんじゃねぇよ…!
ふふっ…。早くしないと。
消えるぞ…
死ぬぞ…
そうこうしているうちに、ロウソクの火がフッと消えてしまいます。
ほうら…
消えたぁ…。
バタっ。と最後に男が倒れるところがオチとなり、このお話は終わります。
死神のオチ
落語「死神」は、オチの種類が落語家のアレンジによって、かなり種類がある作品でもあります。
そのパターンをいくつか紹介します。
・主人公がくしゃみをしてしまい、火が消えてしまう。
・火を移せたことで、安心してため息をついてしまい、火が消えてしまう。
・主人公は実は夢を見ており、妻に「何を寝ぼけているんだい」と言われる(夢オチ)
・火を移すことに成功し、「今日がお前の新しい誕生日だ。ハッピーバースデー」と言われ、ロウソクの火を消されてしまう。
筆者は、オチだけでいうと「ハッピーバースデー」と言われ、ロウソクを消されてしまうパターンが好きです。
立川志らく師匠の落語でみることができます。
まとめ
この記事では、落語「死神」の登場人物やあらすじ、オチのパターンなどを紹介させていただきました。
この他にも落語に関する記事を作成していますので、参考にしてみてください。