落語「明烏(あけがらす)」は、吉原を舞台にした演目です。
商家の後継ぎなのに、うぶで堅物すぎる息子(若旦那)を心配した父親が、知り合いに頼み、若旦那を吉原へと連れて行ってもらうというお話です。
主人公の若旦那は、始めは吉原と知らず、騙されて連れて行かれるのですが、そこでの若旦那のうぶであったり、堅物だったりする様子が笑えるポイントのひとつです。
この記事では、落語「明烏」のあらすじや登場人物などについて、紹介します。
落語「明烏とは」
記事の冒頭でもお伝えしましたが、落語「明烏」は、吉原を舞台にしたお話です。
このお話は、「明烏夢淡雪(あけがらすゆめのあわゆき)」という新内節(浄瑠璃の一流派)に出てくる登場人物の名前を使って、落語にしたものです。
また、「明烏」をいう言葉は、明け方に鳴くカラスという意味があり、転じて男女の夜の契りの終わりを意味する言葉となっています。
主な登場人物
では、落語「明烏」の主な登場人物を紹介したいと思います。
主人公(時次郎)
このお話の主人公。20歳前後で演じられる役柄で、酒や女には興味はなく、本を読んだり勉強ばかりしているような性格の持ち主です。
父親(半兵衛)
主人公の時次郎の父親。日向屋(ひゅうがや)の大旦那。
良い年頃になっても浮いた話などなく、勉強ばかりで堅物すぎる自分の息子を心配しています。
源兵衛と太助
巷では、遊び人として知られている2人。
時次郎の父親である半兵衛から、時次郎を吉原に遊びに連れて行って欲しいと頼まれます。
あらすじ
それでは、落語「明烏」のあらすじを紹介します。
源兵衛と太助にお参りに誘われるが、実は…
日本橋田所町三丁目、日向屋半兵衛(ひゅうがやはんべえ)の息子に時次郎という男がいました。
この時次郎が、このお話の主人公なのですが、品行方正で勉強ばかりしており、堅物すぎる一面がありました。
真面目なのは、良いことなのですが、部屋にこもって勉強ばかりしており、あまりにも世間を知らない時次郎に対し、「後継として、世間付き合いができるのだろうか?」などと、心配しておりました。
そんなある日、息子の時次郎から、父親の半兵衛から、話がありました。
おとっつぁん。
今、町内の源兵衛さんと太助さんにお会いしたんでございますけれども、お稲荷さんのお参りに行かないかと誘われました。
これは、行った方がよろしいでしょうか?
源兵衛と太助というのは、町内でも有名な遊び人の2人です。
あぁ!
源兵衛と太助に誘われたんだな!
それは、行ってきなさい。
ほれ、小遣いだ。
父親は、ニコニコとしながら、時次郎に小遣いを渡し、お稲荷さんのお参りに行くことを勧めました。
実は、堅物すぎる息子を心配した父親が、遊び人として名の知れた源兵衛と太助に、息子を吉原に遊びに連れて行って欲しいと頼んでいたのです。
この度の誘いは、「吉原に行こう」と誘うと、時次郎に断られるかも知れないと思った遊び人の2人が、「お稲荷さんのお参りに行こう」と、時次郎のことを騙して誘ったものでした。
吉原に向かう3人
源兵衛さん、太助さん、お稲荷さまのお篭り(おこもり)に誘っていただきありがとうございます。
おう、よろしくお願います、坊ちゃん。
それでは、行きましょう。
時次郎と源兵衛、太助の3人は、合流し、吉原へと向かいます。
ちなみに、お篭りとは、「神仏に祈願するため、神社や寺にこもること」を指します。
吉原に到着する3人
3人は、吉原の大門の前に到着しました。
賑やかな場所ですね!
本当にここで合ってるんですか?
合ってますよ、坊ちゃん。
そうなんですね!
あそこに、大きな門がありますね。
あぁ、これは…
そう!鳥居でございます!
鳥居?
鳥居は、赤いものだと思ってましたが、ここのは黒いですね?
そうなんですよ。
ここの鳥居は、黒いんです。
源兵衛と太助も、もうしばらくは、時次郎にバレる訳にはいかないので、あれやこれやと嘘を重ねながら、その場を誤魔化していきます。
騙されていたことに気づく時次郎
源兵衛と太助は、時次郎にバレることなく、大門をくぐったのですが、お店に入るとそこには花魁(おいらん)の姿があり、時次郎は、騙されたことに気づいてしまいます。
源兵衛さん!
ここは、どこですか!?
ここは、お稲荷さ…
嘘です!
今、花魁の方が通ったじゃないですか!
私、帰りたいです…。帰ります…!
自分がいるのが、吉原だと気づいた時次郎は、家に帰りたいと言って、泣き出してしまいました。
帰りたいと訴える時次郎に、源兵衛と太助が話しかけます。
実はですね、坊ちゃん。
吉原には、ある決まりがあるんですよ。
その決まりというのは、吉原に入った時と出る時の人数が違っていたら、大門の番人に捕まって酷い目に遭うんです。
それでも良いって言うんなら、お帰んなさい。
もちろん、実際にはそのような決まり事はないのですが、時次郎はそのように脅されて、店に残ることにしました。
花魁の部屋に無理やり押し込められる時次郎
源兵衛たちがお座敷でどんちゃん騒ぎをしているのをよそに、その場に溶け込めず、ポツンと過ごしていた時次郎。
挙げ句の果てには、無理やり花魁の部屋に押し込められてしまいます。
…。
そして、烏(からす)がカァと泣き、夜が明けます。
夜が明けて、話している源兵衛たち
朝になり、源兵衛と太助が話しています。
吉原では、完全に女性が上位の世界で、通ったとしても、必ず花魁と床を共にできるわけではありません。
源兵衛と太助は、昨晩、振られてしまったようです。
この場面で、甘納豆を2人が食べる場面があるのですが、今は亡き、八代目桂文楽師匠が、その場面を演じた時には、甘納豆がよく売れたのだとか。
帰りたがらない時次郎
「振られたもののお越し番」という言葉があり、振られた2人は、時次郎のことを起こしに行きます。
若旦那。
おはようございます。
お篭りの塩梅は、いかがでしたか?
はい。
結構なお篭りでございました。
それは、結構でございました。
それでは、帰りましょうか。
花魁が、私を離してくれないんです。
それに私も苦しいんです…
源兵衛たちが帰るように促しますが、時次郎は、全く布団から出ようとしません。
先に帰ろうとする源兵衛と太助
全く帰ろうとしない時次郎に呆れてしまった源兵衛たちは先に帰ろうとします。
わかりました、若旦那。
ゆっくり遊んでください。
私たちは、先に帰りますから。
そう言って、先に帰ろうとする源兵衛たちの言葉に対し、時次郎は、次のように答えます。
あなた方、帰れるもんなら帰ってごらんなさい。
大門で止められますよ。
このように、源兵衛たちがついた嘘を、最後まで時次郎がピュアに信じていたことがわかる言葉がオチとなり、このお話は終わります。
まとめ
この記事では、落語「明烏」の登場人物やあらすじなどについて紹介させていただきました。
時次郎の堅物ぶりを心配していた父親が、遊び人の2人に時次郎を吉原に連れてってくれるよう依頼をしていました。
そして、遊び人の2人は、時次郎に「お稲荷さんのお参りに行く」と騙して吉原に連れて行くのですが、最終的にはそこが遊郭であるとバレてしまいます。
最初は、泣いて帰りたいという時次郎でしたが、最終的には、吉原のことを気に入ってしまい、帰りたがらなくなってしまうというお話でした。
この記事の他にも、落語に関する記事を執筆しているので、参考にしていただければと思います。