落語「茶の湯」は、古典落語のひとつです。
知ったかぶりをテーマにしたお話で、ご隠居が茶道を披露しようとしますが、茶道の知識がないため、周囲を巻き込んでドタバタ劇を繰り広げるという滑稽噺(こっけいばなし)です。
この記事では、落語「茶の湯」のあらすじや登場人物などを解説しています。
落語「茶の湯」とは
冒頭でも少し触れましたが、「茶の湯」は、古典落語の演目のひとつで、知ったかぶりをテーマにしたお話です。
根岸に隠居した男が、ある日、茶道をやってみようと思いつきます。
しかし、ご隠居は、抹茶のことすら知りません。
茶道のことを全く知らないご隠居の知ったかぶりに、周りの人がどんどん巻き込まれていく、というお話です。
ちなみに、このお話の原話は、1806年に出版された笑話本「江戸嬉笑」の一編「茶菓子」とされています。
登場人物
それでは、「茶の湯」の主な登場人物を紹介していきます。
ご隠居
蔵前の大店(おおだな)を息子に譲って、根岸で暮らしている御隠居。
ある日、「茶の湯」をやろうと思いつきます。
定吉(さだきち)
御隠居と一緒に、根岸で暮らしている小僧の定吉(さだきち)。
御隠居の思いつきの茶の湯に、翻弄されます。
あらすじ
それでは、落語「茶の湯」のあらすじを紹介していきます。
御隠居が「茶の湯」をしようと言い出す
御隠居は、蔵前の大店(おおだな)を息子に譲り、お気に入りの小僧の定吉を連れて、根岸の里でのんびりと暮らしていました。
定(さだ)や!
定はいないか!?
定吉!
はい。
御隠居様、お呼びでございますか?
いや、根岸の里に越して来て、わしも何かしたいんだがな…。
そうだ…!
この家に前に住んでいた人は、お茶人と見える。
茶室がある。わしも茶の湯をやってみたくなった。
やってみたらいいじゃないですか。
いや、子供の頃に習ったんだが、忘れてしまってな。
このように、御隠居は茶の湯をやろうと言い始めますが、茶の湯の知識は全くありません。
見よう見まねで茶の湯を始める二人
最初に茶碗に入れる「青い粉」があっただろ?
あれは、何だったかな…。思い出せない。
青い粉って言ったら、あれかも!
おぉ!分かるのか!
買って来なさい!
そのような流れで、定吉は買い物に行き、戻ってきます。
おかえり、定吉。
何を買って来たんじゃ?
はい!
「青きな粉」を買って来ました!
青きな粉…。
そうじゃ!青きな粉じゃ!
青きな粉でお茶を作り始める二人
御隠居と定吉の二人は、青きな粉を持って、茶室にいき、見よう見まねでお茶をたてます。
茶碗に青きな粉とお湯を入れ、シャカシャカと混ぜます。
御隠居様、お茶を混ぜると泡が出ませんでしたかね?
泡が出ないな。
これは、泡がたつ薬か何かが入るだろ。
泡がたつ。
あれかな?
そう定吉は言い残すと、青きな粉を買って来た時のように、再び買い物に行き、戻ってきます。
何を買って来たんだ?
ムクの皮です。
ムクの皮!
そうじゃムクの皮じゃ!
ちなみに、ムクの皮とは、ムクロジという木の皮であり、洗濯石鹸の代わりに使われたりするようなものでした。
先ほどの青きな粉をお湯に溶かしたものに、ムクの皮を入れます。
ムクの皮を入れると、泡がぶくぶくと出てきました。
こうして、ブクブクと泡だった、得体の知れない「お茶」が完成しました。
完成したお茶を飲む二人
じゃあ、飲むか。
御隠居様、これ飲めるんですか?
そう言いながらも、お茶を飲む二人。
当たり前ではありますが、二人ともお腹を壊してしまいます。
他にも客を呼ぼうと言い出す定吉
お腹の調子が悪くて、昨日は16回も厠(かわや)に行ったわ。
僕は、1回だけでした。
厠に入ったっきり、出られなかったんですけどね。
ここで、提案があると、定吉が言い出します。
御隠居様。
ひとつ提案があるのですが…
我々二人で茶の湯の風流を味わうのではなく、他の人にもこの風流を味合わせてやりませんか?
お前は、危険な思想の持ち主だな。
このような流れで、長屋に住んでいる豆腐屋などの三人を呼ぼうと考えます。
長屋の三人に茶の湯に招待する手紙を定吉に届けさせます。
客人を呼んでの茶の湯が始まる
御隠居の招待により、長屋の三人が御隠居のところへやってきます。
ちなみに、招待された3人も茶の湯のことはさっぱりわかりません。
どうぞ。
お茶(青きな粉とムクの皮を混ぜたもの)を差し出されて、長屋の3人がそれを飲みますが、不味くて飛び上がりそうになります。
しかし、お茶のことを知らないとは思われたくないため、3人とも我慢をして、それを飲み干します。
長屋の三人は、このように酷い目に遭わされた上に、知らないと思われたくないので、文句も言えない状況なのですが、それをよそめに、御隠居は、人をもてなす快感に目覚めてしまいます。
茶の湯の犠牲者になる人が増える…
そこからは、茶の湯三昧。
知り合いの商人や、ただの通りすがりの人まで、様々な人に手当たり次第、自家製のお茶を飲ませていきます。
お茶の不味さも評判となりますが、それと同じようにお口直しの羊羹(ようかん)の美味しさも評判となります。
羊羹代がかさむので、自前の茶菓子を作る二人
手当たり次第茶の湯を行っていた御隠居ですが、羊羹代が目玉が飛び出るくらいの高額になってしまっていました。
これに困った御隠居は、自前の茶菓子を作ることにしました。
こんなに金がかかるとは…
さつまいもを蒸(ふ)かして、すり鉢ですり、甘みをつけるため、黒蜜と黒砂糖をたっぷりと入れます。
これを形をつけるため、型に入れるのですが、黒蜜がベタ付いて抜けません。
何か良いものがないかと考え、灯し油(ともしあぶら)を型に塗って、このお菓子を作ると、型からクルッとスムーズに抜けてくれました。
ちなみに灯し油とは、今で言う「灯油」のことです。
こうして完成したまんじゅうは、「利休饅頭」と名付けられました。
蔵前時代のお友達がやってきます。
それからも、自作のお茶や利休饅頭にいろんな人に振る舞っていました。
そんなある日、蔵前に住んでいた頃の友人がやってきます。
御隠居様。
ご無沙汰しております。
私、茶の湯を存じませんので、ぜひ茶の湯をご教授していただきたく、参りました。
茶の湯を知らない?
それならば、私が教えてあげましょう。
茶室へどうぞ。
お茶を教えて欲しいと言われ、張り切った御隠居は、いつもより多めに青きな粉とムクの皮を入れます。
それを飲まされた蔵前の友人は、「うぇーーー!!!」と吐きそうになりますが、グッと堪えます。
そして、目の前のお饅頭が目に入り、お口直しにと口に含みますが、こちらも不味く食べれたものではありません。
すみません。
少し、厠を貸してください。
そう言って、蔵前の友人はトイレへと向かいます。
油がベタついて気持ち悪くて仕方がありません。
何だこれは…
気持ち悪くてしかたねぇ。
どこか捨てるところはないかなー。
そう言って辺りを見回すと、建仁寺垣(竹垣のこと)の向こうは畑なので、そこに捨てようと「えい!!!」と持っていたものを放ってしまいます。
放られたものは、一生懸命働いていたお百姓さんの顔に当たります。
ベチャ。
あー…。
また、茶の湯か。
この一言をオチにして、このお話は終わります。
まとめ
この記事では、古典落語「茶の湯」の登場人物やあらすじについて、紹介させていただきました。
茶の湯の他にも、これから落語を楽しみたい方向けに記事を作成していますので、参考にして頂けたらと思います。