落語「転失気(てんしき)」は、古典落語のお話のひとつです。
このお話は、「転失気とはどういう意味の言葉なのか?」を知らないのに、知ったかぶりをする人をテーマにした滑稽噺(こっけいばなし)です。
この記事では、落語「転失気」の登場人物やあらすじを紹介します。
落語「転失気とは」?
落語「転失気(てんしき)」は、古典落語の演目です。
とある和尚が医師のもとを訪れ、診察の途中で「転失気はありますか?」と、医師に聞かれたことから物語が始まります。
和尚は、転失気という言葉の意味が分かりませんでしたが、この当時の和尚さんは、知識人として知られていたため、転失気のことを知らないとは答えることができません。
この和尚の知ったかぶりをテーマにお話が進んでいきます。
登場人物
それでは、落語「転失気」の登場人物を紹介していきます。
和尚
この話の中心となる、お寺の和尚さんです。
少々見栄っ張りなところがあり、「知ったかぶり」をしてしまいます。
医者
お医者さん。
和尚さんの診察の際に、「転失気はあるか?」と聞き、この一言をきっかけに物語が進んでいきます。
小僧の珍念(ちんねん)
和尚のところにいる小僧の珍念。
和尚に「てんしきを借りてきなさい。」と命じられ、和尚の知ったかぶりに振り回されますが…。
あらすじ
それでは、落語「転失気」のあらすじを紹介します。
お医者さんに「てんしきはありますか?」と聞かれる和尚さん
あるお寺の和尚さんが、体調を崩してしまい、お医者さんに往診をしてもらう場面から、お話は始まります。
先生、今日はありがとうございました。
いえいえ、この調子であれば、次第に良くなるでしょう。
ところで、和尚さん。
最近、「てんしき」はありますか?
お医者さんにそう聞かれましたが、和尚さんは、「てんしき」という言葉を聞いたことがありません。
当時の和尚さんは、知識人として知られていたため、てんしきのことを「知らない」と言うことはできません。
てんしき…!?
あ…あぁ!ありますよ。
そうでございますか。
では、薬を調合いたします。
お大事にどうぞ。
そう言って薬を渡すと、お医者さんは帰ってしまいます。
てんしきのことが気になる和尚
和尚は、「てんしき」という言葉が、どのような意味の言葉なのか気になって仕方がありません。
そこで、お寺の坊主の珍念(ちんねん)がこのことを知らないか、探りを入れます。
珍念や。
こちらに来なさい。
和尚様!
どうされました?
うむ。
珍念。てんしきを出しなさい?
てんしきとは、なんですか?
以前、わしからお前に教えたはずじゃ。
てんしきのことを忘れておるとは…。
忘れていて申し訳ありません。
また、教えてください!
すぐ人に聞いて、答えを知りたがるのは良くないことじゃ。
このように、和尚は、珍念がてんしきを知らないか探りを入れてみましたが、どうやら知らない様子です。
珍念にてんしきの意味を調べさせる
そこで和尚は、てんしきを坊主の珍念に調べさせることを思いつきます。
わしがここで、てんしきについて教えてやっても、またお前は忘れてしまうじゃろう。
自分で調べて来なさい。
はい。
分かりました。
よろしい。
では、花屋に行って「てんしき」を借りて来なさい。
花屋になかったら、八百屋に行って借りて来なさい。
そのような流れで、珍念は花屋、八百屋に行くことになります。
花屋にて
珍念は、花屋について、てんしきを貸してくれないかと、花屋の主人に聞いてみます。
すみませーん!
もしよかったら、てんしきを貸してくれませんか?
そう珍念に聞かれますが、花屋も「てんしき」という言葉の意味が分かりません。
そして、苦し紛れに次のように答えます。
あ…、あぁ、てんしき!
2つほどあったんだが、1つは親戚の人にあげてしまって、もう1つは、棚の上に置いていたのをネズミが落として、割れてしまったんじゃ。
そのようにはぐらかされ、珍念は花屋でてんしきを借りることはできませんでした。
そのため、和尚に言われた通り、八百屋に行くことにします。
八百屋にて
先ほどの花屋の時と同様に、珍念は八百屋に「てんしきを貸してください」とお願いするのですが、八百屋もてんしきとはなんのことだか、さっぱり分かりません。
それを誤魔化すため、八百屋は「いやー、てんしきは、今朝、味噌汁に入れてしまったから、もうないんだよ」と答えます。
「棚から落ちて割れてしまった」と言われたり、「味噌汁に入れてしまった」と言われたり、珍念は何がなんだか分かりません。
結局、珍念は、てんしきのことを分からずに、お寺に戻ることになります。
お寺に戻ってきた珍念
珍念がお寺に戻ってきます。
珍念。戻って来たのか。
てんしきとは、なんのことか思い出したか?
いえ、これが、割れてしまったり、味噌汁の具になったり、さっぱり分からないのです。
てんしきとは、いったいなんなのですか?
すぐに、わしを頼るのではない。
お医者様に聞いて来なさい。
このような流れで、珍念が直接お医者さんにてんしきとは、なんなのかを聞きに行くことになります。
てんしきとは何かを、お医者様に聞きに行く珍念
お医者様。
てんしきとは、なんのことなんですか?
てんしきとは、気を転(まろ)び、失うと書いて、転失気。
つまり、屁のことじゃ。
えぇ!?
つまり、てんしきとは、オナラのことだったんですか!?
てんしきとは、オナラのことだったことを知った珍念。
そうして、もうひとつあることに気づきます。
もしかして、和尚さんは、転失気のことを知らないんじゃないの?
和尚が、知ったかぶりをしていたことに気づいた珍念は、騙していた和尚に仕返しをすることを思いつきます。
和尚にてんしきの嘘の意味を教える珍念
ただいま戻りました。
帰ったのか。
てんしきの意味はわかったのか?
はい!
てんしきとは、「盃(さかずき)」のことでした。
和尚は、「盃のことだったのか」と思いならも、次のように答えます。
うむ。
呑む、酒の器と書いて、呑酒器(てんしき)と読むのじゃ。
もう、忘れるでないぞ。
このような流れで、和尚はてんしきの意味は盃のことだったと、騙されてしまいます。
後日、往診に医者がやってくる
後日、和尚の往診のため、寺に医者がやってきます。
お医者様。
先日のてんしきの件なんですがな。
寺に代々伝わるてんしきを見てください。
しかし、てんしきとは、オナラのことなので、そのようなことを言われても、お医者様は困ってしまいます。
てんしきなんて、見せられても困ります。
遠慮なさらず。
珍念、てんしきを持って来なさい。
三枚重ねのやつがあったじゃろ。
そう言われた珍念は、素直に三枚重ねの盃を持ってきます。
和尚…。
医者の方では、オナラのことを転失気と申しますが、このお寺では、これのことを転失気と呼ぶのですか?
そのように聞き、騙されたことに気づいた和尚は怒ってしまいます。
騙されたことに怒る和尚
珍念!お前わしを騙したな!!
お前は人を騙して、なんとも思わんのか!?
そう怒られた珍念は、次のように返します。
はい。
屁とも思いません。
この一言がオチとなり、このお話は終わります。
この転失気をいうお話は、噺家によって、オチのパターンもいくつかあるお話なので、いろんな人の話を聞き比べてみるのも、面白いと思います。
「転失気」の意味と由来
先ほど、あらすじを紹介しましたが、転失気とは、オナラという意味でした。
これは、昔の中国(205年頃)に完成した医学書「傷寒論(しょうかんろん)」という実在の医学書に載っている言葉です。
しかし、落語の中で転失気は「オナラ」として紹介されていますが、実際の傷寒論の転失気は、少しだけ意味が違うという説もあります。
傷寒論の中で、失気とは腸内のガスのことであり、転失気とは、腸内のガスが出なくなる症状のことを指すと解説されている方もいます。
傷寒論においての転失気の意味を調べてみたのですが、正確な情報がわからず、曖昧な表現になってしまい、申し訳ありません。
ただし、少なくとも現代の辞書などには、「転失気とは、屁のこと。おなら」と、解説されています。
まとめ
この記事では、落語「転失気」のあらすじや、転失気の意味などについて解説させていただきました。
この話は、お寺の和尚さんの知ったかぶりをテーマにした滑稽噺です。
噺家によって、オチのバリエーションも多い作品なので、いろいろな落語家さんの転失気を聞いてみましょう。
このお話以外にも、落語をこれから楽しみたいという方に向けて、記事を作成していますので、参考にしていただければと思います。