美術館などで絵画や彫刻を目にしたとき、「これが何を表現しているのか理解できない」「自分にはアートの良さがわからない」と感じたことがある人は少なくないでしょう。
筆者も、今ではアートの魅力にどっぷりですが、元々はアートに全く興味もないし、ピカソの絵もよくわからないと思っていました。
この記事では、アートがわからないと感じる理由をお伝えした上で、アートを理解し楽しむための第一歩について、わかりやすく解説していきます。
少しの知識と自由な心で、アートの世界をもっと身近に感じてみましょう。
アートが「わからない」と感じる理由
それでは、アートがわからない感じる理由について、3つの理由を解説していきたいと思います。
アートに対する先入観
「アート」と聞くと、「難しいもの」「高尚なもの」と感じる人も少なくないのではないでしょうか。
これは、アート作品が美術館など特別な場所で展示されることが多いことや、「誰々の作品が高額で売買された」などのニュースだけが取り上げられ、一般の人々にとって、敷居が高く感じられることが一因です。
また、アートに関する知識や観る経験が不足している場合、「自分には理解できない」という思い込みが強くなりがちです。
しかし、アートは必ずしも専門的な知識を必要とするものではありません。
アートを観た時の、感じ方や受け取り方に正解はありません。
重要なのは、自分なりの視点で作品を楽しみ、自由に感じることです。
例えば、下の絵を見てください。
この絵は、フィンセント・ファン・ゴッホの「花咲くアーモンドの木の枝」という作品なのですが、背景の淡いブルーとか、小さな白い花が可愛いですよね。
筆者は、理屈っぽくアートを見ることが多いので、絵画のコンセプトなどを考えてしまいがちなのですが、この絵に関しては、素直に「可愛い。部屋に飾ってみたいな」と感じさせられます。
このように、アートに関する知識がなくても、自分の心に響く作品というものが、人それぞれにあると思います。
また、感動するものだけでなく、「かっこいい」「大きい」「気味が悪い」「この絵は好きになれないけど、なんでだろう」など、絵を見たインスピレーションを感じることも絵画の楽しみ方のひとつです。
「アートは難しく、わからないもの」という先入観を捨てることで、アートをもっと身近に感じることができます。
アートに関する知識の不足
アートを理解する上で、多くの人が抱える課題の一つが「知識不足」です。
特に、美術史やアートの専門用語に精通していないと、作品を見てもその背景や意図を理解することが難しいと感じてしまうこともあります。
先ほど、「知識がなくてもアートは楽しめる」と言ったばかりであり、それも嘘ではないのですが、知識があった方が、別の角度からもアートを楽しむことができます。
例えば、下の絵を見てください。
これは、エドゥアール・マネの「草上の昼食」という作品なのですが、現代の人が見ても、それほどショッキングな印象はない絵だと思います。
しかし、この絵が発表された当時、この絵はとてもスキャンダラスな作品であり、物議を醸しました。
その理由はというと、当時は「神話などに関する人しか、ヌードで描いてはいけない」という暗黙のルールがあったことが理由です。
ざっくりいうと、女神様はヌードで描いてもOKだけど、一般の女性はヌードNGといった感じです。
しかし、マネの草上の昼食は、一般の女性が裸でピクニックをしている様子が描かれており、社会的道徳に反する作品であるとみなされました。
現代の人からすると「神様でも一般の人でもどっちも同じ裸じゃん」と思うかもしれませんが、当時の人からすると信じられない作品だったのだと思います。
当時は非難されましたが、「その時代の常識を破った」という意味で、この絵は現在も名作として語り継がれているわけです。
このように、アートに関する知識が少しだけわかっていれば、違う楽しみ方ができる作品もたくさんあります。
アートの知識は、一気に身につけようとすると大変なので、少しずつ学ぶということが大切です。
まずは、好きな作品やアーティストを見つけて、その人についてのことを本やYouTubeなどで調べてみる方法がおすすめです。
美術鑑賞の経験の少なさ
アートが「わからない」と感じる理由のひとつに、美術鑑賞をする人の経験の少なさがあげられます。
アートは、鑑賞する側の経験によって作品の受け取り方が異なります。
たとえば、アートについて、勉強した人や美術館に頻繁に通う人は、作品の背景や技法を理解しやすく、その分深い意味を見出すことができます。
一方、アートに不慣れな人は、何を感じればいいのか、どう見れば良いのか戸惑うことがあります。
しかし、アート初心者の方が、劣等感を抱いたり、難しそうと諦める必要はありません。
アートの本質は、自分なりの感性で自由に楽しむことです。
自分の感覚を信じて、作品を楽しむことも大切ですし、少しずつ知識がついてくると、その都度で作品の見方や感じ取り方が変わってきます。
同じ作品でも、自分の知識やそのときにハマっている作品などによって、作品の見え方や感じ方が変わってくるのが、アートの面白さだと思います。
アートを理解するための第一歩
それでは、「アートに少し興味があって、アートのことを知ってみたい」と思われている方に向けて、アートの理解していくためには、どうしていけば良いかについて、説明していきます。
とりあえず美術館に行ってみる
先ほどもお伝えしましたが、アートを難しく感じてしまうという理由の一つに、美術鑑賞の経験の少なさというものがあります。
それを解消するために、とりあえず美術館に足を運んでみるという方法がおすすめです。
後から解説していくように、アートに関する知識をつけていくこともおすすめの方法なのですが、実際にアートを体感していくことも、同じくらい重要なことです。
「モネ展」「歌川広重展」など、気になる特別展に行ってみるのも良いですし、その美術館が所蔵しているコレクションが観れる常設展では、比較的リーズナブルに美術館を楽しむことができます。
美術館の楽しみ方については、こちらの記事でも解説しています。
アートの歴史を知る
アートを理解するための第一歩として、アートの歴史を知ることは非常に有効です。
アート作品は、その時代の文化や社会状況を反映しており、歴史的背景を理解することで、作品の意図や意味がより深く見えてきます。
例えば、「ピカソがなんですごいのか、よくわからない」と、聞くことが多いですが、カメラの誕生というところにフォーカスして、簡単に説明します。
19世紀初頭にカメラが発明されるまでは、写実的な絵が評価されていました。
上の絵は、ナポレオンが描かれたジャック・ルイ・ダヴィッドの有名な作品です。
わかりやすく上手で写実的な絵ですよね。(※この絵は、ナポレオンの身長など色々と美化されているところはありますが)
そして、19世紀初頭にカメラが発明されると、現実を忠実に再現する能力が写真に委ねられることになりました。
それまでの肖像画や風景画において、写実性が重視されていましたが、カメラがその役割を担うことになったので、絵画は新たな方向性を模索していくことになります。
そのムーブメントの中のひとつが、印象派です。
下の絵は、モネの「印象、日の出」という作品です。
現実的な再現をするのではく、光と色彩の印象を捉えることで、その瞬間の感覚を表現している作品です。
ここから、もう少しアートにおけるムーブメントがいくつかあるのですが、ざっくり言うと、「写真では表現できないことを表現していこう」という流れの中で、ピカソの画風が誕生していきます。
ピカソが評価された点は、他にもいくつかあるのですが、現実を超えた新しい表現を生み出したという点で、ピカソは評価されています。
このように、アートの歴史やその人が何をしようとしたのかがわかると、アートの違った見方を楽しむことができます。
日本の美術館では、印象派前後の作品に触れる機会が多いので、まずは印象派についての歴史を学んでいくことで、美術館やアートを楽しめると思います。
アート用語を学ぶ
作品について身近に感じやすくなったり、美術館に行った時などに解説の内容を理解したりしやすくなるので、アートの用語を学ぶことは非常に有効です。
最初は、難しく感じるかもしれませんが、少しずつ学んでいくことが大切です。
せっかくなので、この記事でも、3つほど絵画の技法について紹介したいと思います。
スフマート
スフマートとは、ルネサンス期に特にレオナルド・ダ・ヴィンチが用いた技法です。
輪郭線を用いずに対象物の立体感や形状を表現します。
「モナ・リザ」を見てもらうと分かると思うのですが、顔や唇部分を見ると輪郭線が全くありません。
それにも関わらず、形や立体感を感じとることができます。
油絵具を薄く溶いて、何層にも塗り重ねることで、この表現を実現させています。
ただし、スフマートは、何層にも絵の具を塗り重ねて、自然なグラデーションを作っていくため、制作に時間がかかりやすいというデメリットがあります。
キアロスクーロ、テネブリズム
キアロスクーロとは、絵画における光と影のコントラストを強調する技法です。
上の絵も、明るいところと暗いところの明暗対比がはっきりとわかる絵ですよね。
この技法は、作品に立体感やドラマティックな効果を与えます。
また、キアロスクーロよりも、明暗のコントラストがより強いものを「テネブリズム」と呼んだりもします。
現代の感覚でいうと、舞台の役者にスポットライトを当てるような感覚かもしれません。
作品がドラマティックな印象になります。
筆触分割
筆触分割(ひっしょくぶんかつ)とは、主に印象派のアーティストたちが用いた技法です。
色を混ぜずに、純粋な色彩を小さな筆触で隣り合わせに置くことで、見る人の目の中で色が混ざり合って見える効果を狙った描き方です。
絵の具を混ぜると、色が暗くなるのですが、色をまぜずに色を配置していく筆触分割では、明るめの色を表現することができます。
この記事では、技法について紹介しましたが、それぞれのアートのムーブメントを表現する言葉などもたくさんあるので、少しずつインプットすることで、作品をより楽しむことができると思います。
アートの見方を知る
アートの見方に正解はありませんが、漠然と見るよりも、視線の誘導や構図について考えながらみるのもおすすめです。
例えば、絵画作品の中には、鑑賞者の視線を特定の方向へ誘導するような意図で描かれているものが多くあります。
絵画の登場人物の目線や、指をさす方向などで、無意識に鑑賞者の視線を誘導しているということです。
また、どこに人がいて、角に何が配置されているのかなど、絵画全体がどのようにバランスを取っているかにフォーカスして、作品を鑑賞するのも面白いです。
これらに気づくことで、アーティストが伝えたかったメッセージや、作品のテーマをより深く理解できるようになります。
構図や視線誘導の勉強をするときに、こちらの本がわかりやすくて楽しめました。おすすめの本です。
自分に合ったアートの楽しみ方を見つける
何度もお伝えしていますが、アートを楽しむ方法に決まりはなく、楽しみ方も人それぞれです。
まず、自分がどのようなアートに興味を持っているかを見極めることが大切です。
絵画、彫刻、写真、刀、現代アートなど、アートのジャンルは多岐にわたります。
また、絵画を見る方法も、実際に美術館に訪れて、直感的に惹かれる作品との出会いを楽しむのも良いですし、YouTubeや美術館のホームページで、気軽にアートに触れるという方法もあります。
最近は、アートのサブスクサービスなどで、自宅をおしゃれにできるようなサービスもあったりするので、いろいろな方法で、アートを楽しみましょう。
まとめ
アートが「わからない」と感じるのは、決して特別なことではないし、悪いことではありません。
この記事でも、アートを楽しむためには、知識や経験を増やした方が楽しいよということはお伝えしましたが、アートの楽しみ方はそれだけではありません。
見たものを、そのまま感じることもアートを鑑賞する上で大切なポイントの一つです。
自分に合ったアートの楽しみ方を見つけ、自由に作品を楽しむことで、アートとの距離が縮まり、新たな視点が広がるでしょう。
アートは、人生を豊かにするための一つの手段です。焦らず、自分のペースでアートを探求し、その魅力を発見してみてください。